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 クシシュトフ・キェシロフスキー『デカローグ 7 ― ある告白に関する物語』 (1988 ポーランド) ★★★☆




 第7話『あなたは盗みをしてはならない』
 エヴァ(アンナ・ポロヌ)とマイカ(マヤ・パレゥコフスカ)は実際の母と娘、ヴォイテク(ボゼナ・ディキエル)はかつてエヴァが校長だった中学の国語教師。これはポーランドでもそうなんでつか、日本だけじゃないんでつねぇ、困った教師。。。。。その中学教師が教え子マイカに手を出して、よりによって校長の娘に手を出すなんて底抜けにバカか色情狂か、しかもそのあげくに孕ませた。をいをい(-_-;) その結果生まれたのがアンカ(カタリナ・ピオマルスキー)。
 そしてここに大人の力学が発動するととんでもないことが起る。中学校長のエヴァにとってはとんでもない不祥事で、しかもその被害者(といっていいか疑問ですが)が、実の娘マイカ。ヴォイテクはさっさとぶっ飛ばしてしまい、つまりクビです。生まれたアンカをマイカから取り上げ、自分の娘として籍に入れてしまいます。つまりは実際の母と娘となるマイカとアンカは戸籍上、姉妹となってしまったのです。もちろんこの仕組まれた関係は、ここにあがった人間以外にはエヴァの亭主、つまりマイカの父親ステファン(ウラジスラウ・コワルスキ)だけにしか知られていません。うをーっ、これで大人の面子が保たれると考えるわけなんだから、先にその種が芽を出し、邪悪な花を咲かせると気がつかんのかい。
 このような大人のエゴイスティックな力学は大人のサイドが発動し、大人に対して作用していくもの。すなわち、まず発端で大人のサイドに組み入れられていなかったマイカが数年後に大人の領域に入ってくることでその力関係は破綻するわけで、この『ある告白に関する物語』は、その崩壊していく様をくっきりと描き出すわけです。もっと続編を望むならば、さらに10数年後にアンカが大人の領域に入ってくると次の破綻が用意されているのでしょうが。
 この一件の最大の被害者はアンカだと言ってしまうのは簡単。でもな、このアンカにしても10数年後に大人の力学を発動するのは、まず必至で、ここで誰が悪いのか、どうすれば誰にとっても幸福なのか、キェシロフスキはこの『デカローグ』を通していっさい明示していませんね。ひとつの事件に関して、ある程度のスタンスをとって見るだけ。このスタンスが絶妙といえば絶妙です。悪く言えば、問題を提示するばかりで逃げをうっていると言えるかもしれませんが。人それぞれに幸福があって、不幸がある。そうして事実だけがある。その事実を、幸福ととらえるか不幸ととらえるかも、また人それぞれなのだとばかりに、答えを示さないのがキェシロフスキの流儀だとばかりに。
 とりあえずは列車が走り去っていくところで終わりはするけれど、人生なんてのは、映画の中に切り取られた部分で完結してしまうようなもんじゃなくて、それらがどんどん繋がるチェインなのだと、それが重いかどうかも、また人それぞれ。

 男の目から見ていると、ほんと女って強いよなぁ。この中であたふたしているのは男どもだけだもん。女は弱し、されど母は強しってとこですか。それにしても。。。。

Dekalog 7
監督 クシシュトフ・キエシロフスキー
製作総指揮 リシャルト・フルコフスキ
脚本 クシシュトフ・キエシロフスキー / クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
撮影 ダリウシュ・クッツ
音楽 ズビグニエフ・プレイスネル
出演 アンナ・ポロヌ / マヤ・パレゥコフスカ / ボゼナ・ディキエル / カタリナ・ピオマルスキー / ウラジスラウ・コワルスキ


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2004年01月30日(金)
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