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 ▼ トラン・アン・ユン『青いパパイヤの香り』 (93 仏,ベトナム)


「舞台設定だけアジアであとはおもいっきりヨーロッパ映画でしたね」(とこりさん)
 監督のトラン・アン・ユンはフランス在住のベトナム系フランス人。といっても生れは'62年ベトナムで、かのベトナム戦争で一家でフランスに亡命したという。

 パパイヤって熟したら黄色くなるけれど、熟すまえは青くて胡瓜に似ているらしい。道理でパパイヤを千切りというか、細く切ってサラダにするのだな。あれ、むちゃ美味そう、腹が減って仕方がない。青菜を炒めたのもむちゃ美味そう。青菜を炒めるときのコツは強火だと幼いムイ(ルー・マン・サン)に教える。
 話は10歳で女中奉公に来た頃の話とそれから10年後に分れる。前半はムイを中心に屋敷の子どもたち、それをとりまく大人たちが描かれる。後半は10年経って、若い音楽家クェン(ボン・ホア・ホイ)の女中として移ってからの話。ムイは監督トラン・アン・ユンとずっと共にしているトラン・ヌー・イェン・ケー。
 前半ね、またボクの弱いガキんちょ話なんだけれど、ところが、このガキんちょがすごくいい。ムイが奉公に出た家にはムイより少し上の兄と、ムイより下の弟がいるのだけれど、この兄弟もすごくいい。 弟はムイの気を惹こうとしてムイにいじわるばっかりしてる。弟のおしっこ、このシーン大好き。ちょっと『次郎物語』みたいか(←といっても『次郎物語』なんて知らないだろうな。。。笑) いっぽう兄のほうはことば少なに自分の世界からムイを見つめる。その子供たちをとりまいている大人たち、婆ちゃんに密かに想いをよせる爺ちゃんだとか、もちろんムイにいろいろ教える女中のおばちゃんだとか。大人たちに暖かみがある。
 すごく好きな映画に『萌えの朱雀』があるけれど、少ない言葉(セリフ)、それと長回しということ、それらで似てるなと思ったけれど、ずっとずっと出来としてはこっちのほうが上だね。俳優に必要以上にしゃべらせない。そのことで、発せられた言葉がよりウェイトを占めるようになる。言葉の少なさを物たちにしゃべらせる。つまり切り取られたパパイアの茎から滴る白い樹液であったり、たらされた蝋に捕捉されてもがく蟻であったり、爬虫類の蠢きであったり、コオロギであったり、さらにはそこかしこに置かれている壺であったり、仏壇に掲げられた写真であったり、これほどに物言わぬものたちに言葉を発せさせているのだ。それを映像美ととらえることもできるんだろうけれど、映像美というよりむしろ映像の肉感とボクは考えていたい。
 もうひとつ、言えるなぁと思うのは、それらのものたちの向こう側に透かせて見えるということ。例えば、蚊帳であったり、また開放された家屋の造りを上手く取り込んだ表現であったり、そのことがアジアと欧米の大きな違いだと思う。つまり覗くことと何らかのもの越しに見える(見せる)ということ。それがいくら《ベトナム発フランス映画》と言われようと、ルーツとしてベトナム(アジア)なんだと思う。
 もうひとつ、書いてもいい?(笑) フェチなんですよぉ。たとえば、トラン・ヌー・イェン・ケーが髪を洗うシーンね。むちゃくちゃ艶っぽいのね。見えないですよ、じぇんじぇん。でも艶っぽい。そして紅を引くシーン。それは、幼いムイがクェンに食事を運ぶときに浮かべた表情を、幼いので艶っぽくはないけれど、クェンに対する想い(決意)をずっと抱き続けていたのだね。そして足の先、指の先。。。。。それは青いパパイヤですね。。。。

L'odeur De La Papaye Verte
監督・脚本 トラン・アン・ユン
撮影 ブノワ・ドゥロム
音楽 トン・タ・ティエ
出演 トラン・ヌー・イェン・ケー / ルー・マン・サン / グエン・アン・ホア / トルオン・チー・ロック/ ボン・ホア・ホイ
★★★★★




2002年04月01日(月)
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