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 ▼ 田中登『実録阿部定』 (75 日活)


 これを見るのは20数年ぶりのこと。
 あのころ「阿部定」というのはひとつのキーワードになっていたところがある。大島渚『愛のコリーダ』(76年)、佐藤信・黒テント『阿部定の犬』(75年)、関根宏『阿部定詩集』(71年)。その理由のひとつは、昭和11年は、二・二六事件が起こり、同じ年の5月に、この阿部定事件が起きたということ。情報操作の意図もあって、必要以上に阿部定事件が取りざたされたという説もある。この『実録阿部定』でも、石田吉蔵(江角英明)が「あのときは寒かったな」と、二・二六を述懐し、当時のラジオ放送が流される。
そして、二人が籠っていた待合まさきの表の道を憲兵が歩くシーンに、
   「外の光が邪魔なのよ」
と、「定・吉二人キリ」の世界にどんと変る。このシーンの切り返しはほんと見事としか言い様がない。宮下順子=阿部定にして言わせた「外の光が邪魔なのよ」とまでボクは言い切ってしまうよ。真っ暗な待合の廊下にすくっと立つ宮下順子真っ赤な襦袢姿はわけもなく美しい。すべて、外の光を遮断してしまった徒花のように美しい。
 宮下順子は決して芝居の上手い女優でない、とボクは思う。せりふ回しにしてもくささが漂う。しかし、宮下順子だからこそ、徒に悲愴感などかきたてるのでなく、今でいうと「天然」―うーん、これより適当なことばが見つからないな―天然だからこそ妙な緊迫感が生じなかったと思える。下手に「上手い芝居」をやられてたら見るほうもしんどいでしょ。実際、ボクが思うに、阿部定自身にそんな緊張感などなんら無かったと思うからね。
 うーんと、それから、リアルタイムで見たときには、ボク自身まだ二十歳そこそこで、いちおう偉そうに、エロスの極致だとかなんちゃかんちゃごたく並べてたけど、阿部定の当時の年齢が、三十過ぎでしょ。二十歳のときと逆の目で見ることができて、うーん、うーん・・・・それくらいボクも修業したということだ(爆)、それでも阿部定は可愛くてたまらない。
 
CinemaScape  ★★★★★ 


2001年10月28日(日)
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